訪日中国人によるインバウンド買物消費市場の合計9,000億円のうちの、前回ご紹介した、主に団体旅行客が使用する、免税店の市場が2,500億円を占めるとすると、残りは6,500億円となります。この市場は純粋に旅行を目的に訪問された個人旅行客だけによる買物だけで構成されているものではないと我々は考えています。もう一つ、考慮すべき購買行動として、いわゆる「代講」による購買も考える必要があると思っています。個人旅行客と代講は統計上区別されてはいないと思いますので、旅行客数の中に代講の方の人数も相当数含まれていると考えます。
「代購」とは代理購入のことで、他にもソーシャルバイヤーによる購買といった呼び方もあります。中国の友人や知人にお願いされたものを、本人の代わりに購入して手数料を受領することが典型的な形態だったようですが、日本在住の留学生や在日中国人の方が代行していたり、あるいは前回記事にでてくる団体旅行客のガイドが帰国後の旅行客の依頼を受けて指定品を購入するなど、様々な形態があるようです。現在は、SNS等で顧客を募り、雑貨や洋服等を販売する専門のバイヤーになってきている方もいらしゃるようです。彼らの訪日の目的は旅行ではなく、仕入れです。実際、弊社のお付き合いのあるドラッグストア等でまだまだ店頭でまとめ仕入れされる、代購の方がよくいらしゃっているようです。
代購は越境ECの一形態とも見ることもできます。代購による市場規模と越境ECモールによる合計で越境ECの市場規模を推計していると考えられる調査統計もあります。しかし、実際の店頭で購入してる代購入の方も多く存在していますので、訪日中国人のインバウンド買物消費を考える上では、彼らの購買行動も無視する訳にはいかないでしょう。
個人旅行客、代購共に共通するのは、売れ筋商品への購入に集中するということです。例えば、薬で言えば「神薬」として取り上げられた商品であったり、化粧品についても、既に中国国内において地位が確定した有名ブランド商品に集中します。個人旅行客であれば、訪日前に調べてリスト化し、それに沿って購入します。代購の場合は、以前購入したもののリピート需要としての購入がなされます。いずれも、中国人にとって評判が確立した売れ筋の商品が大多数を占めていると言われています。
ただ、一点注目したいのは、越境ECの市場環境の変化から来ている点です。最近は、大手越境ECモールが自らが販売主体となって、これまでの売れ筋商品である子供用商品や化粧品、健康食品・雑貨等について日本国内メーカーから直接仕入れし販売することを開始しました。このことにより、売れ筋商品は中国国内で価格競争に突入しており、日本の店頭価格に近い値段で越境ECで購入することが可能になってきています。その結果、代購においても販売価格が下がり、売れ筋商品では利益を確保することが難しくなってきているようです。そのため、大手の越境ECモールが扱わないような、ブランド系のアパレルやファッション雑貨、あるいは化粧品・健康食品等でもまだ中国国内では知名度がそれほど高くはないが、日本国内での品質や知名度の高い商品に代購の力点がシフトしてきています。
彼らは、価格競争に陥ってない独自の商品をいち早く発見し、既存顧客に紹介し、購入してもらうことで、利益の確保を狙っています。国内の展示会等で出店されると、多くの中国人代購の方から引き合いがある経験のある企業様もお多いのではないでしょうか。このことは未だに中国国内において知名度のない日本企業にとっても大きなチャンスかと思います。
今後中国人への販売を考えている企業にとって、最大の課題は、中国国内で知名度やブランド力のない商品を、どのようにして浸透させていくのか、ということになるかと思います。
広い中国に単にマス広告していくだけでは、砂漠に水を撒くようなものです。弊社の経験でも、中国人は知名度のない商品でも、自分の信頼する人間の紹介であれば積極的に購入してくれることがわかっています。逆に、いくら広告をうっても信頼できるチャネルで購入できなければ、購入してくれません。その意味では狭い範囲ではありますが、代購を通じてまずは中国人への販売実績を作り、口コミを形成していく作業も中国人向けに認知度を上げていく上では、重要な作業になっていると弊社は考えており、そのようなサポートもさせていただいております。