実践!DX時代の初めてのプロジェクトマネジメント

第3回 プロジェクト計画を立てる。(1)

プロジェクト計画の目的とゴール

これまで、プロジェクトマネジメントプロセスの全体像を見てきたが、今回からその第1回として、プロジェクト計画フェーズについて詳しく見ていきたい。

プロジェクト計画フェーズの目的は、プロジェクト計画書を作成し、それに基づきプロジェクトオーナー及び関係者とプロジェクトの内容について合意し、プロジェクトを推進することについて承認を得ることである。

プロジェクトオーナーとは、プロジェクト責任者のことだ。多くの場合は、プロジェクトの予算元の部局。人で言えば、その部署の管理者ということなる。

プロジェクトの開始に先立っては、通常プロジェクトオーナーがいて、そこの課題意識を踏まえ、プロジェクトの目的や解決したい課題がどのようなものであるかについて、前提としてある程度提示されるものだ。そのオーダーを踏まえ、具体的にプロジェクト内で実施する作業や体制、必要な費用といったものを具体化し、プロジェクトを実施する意味や必要性、費用対効果などを検証する過程が、このプロジェクト計画における作業概要となる。

プロジェクト計画書の作成方法はこう進めれば必ずうまくいくというものがあるわけではなく、内容の詰まり具合によって必要なアプローチを定義しながら進める必要がある。そのため、初めてプロジェクト計画を作成する場合、どのように進めれば良いか戸惑うことがあるだろう。
大事な事はまずゴールを明確にすることだ。プロジェクト計画のフェーズにおいては、まずプロジェクト計画書を作り上げることが第一のゴールであり、その上でそれをベースに関係者と合意をとることが次のゴールである。

したがって、まずプロジェクト計画書のイメージを明確にし、そこに必要な情報の取得や検討をどう行っていくのかと言う観点で作業組み立てていくのが良い。 そのため、まずプロジェクト計画書がどのようなものなのかををいかに明らかにした上で、効率的に作るための手順やアプローチについて検討したい。

プロジェクト計画書に盛り込む項目

まず、下記はプロジェクト計画書の典型的な目次構成について示している。最低限、ここに記載がある内容については、計画書内に記載が必要であろう。

①背景と目的
②スコープ
③取り組み内容
④作業スケジュール
⑤体制
⑥費用
⑦効果

各項目がどのなものか、どういった点を記載するのが良いかと言うことを個別に見ていきたい。

①背景と目的

まず最初に記載すべき内容は、プロジェクトの背景と目的である。
背景とは、なぜこのプロジェクトを検討するに至ったのか、その理由となるべき事象・現象について記載する。
目的は、背景から導き出される形でなぜ設定されるべきものである。
まずここで重要な事は、プロジェクトオーナーの問題意識をよく共有を受けることだ。また、これまでに過去の検討があるようであれば、それらの資料もよく読み込んで、なぜこのプロジェクトが検討されるに立ったのか、そこをよく理解することだ。その上でなぜこのプロジェクトが開始されるに立ったかを自分なりにまとめてみることをお勧めする。背景が理解できれば、このプロジェクトが何を目的するべきなのかはおのずと明確になる。また目的がしっかり理解することで、その後のスコープや作業の必要範囲を判断していく上での重要な基準になっていく。

背景の記載例

②スコープ

次に明確にすべき内容はスコープである。スコープとはこのプロジェクトにおいて対象とする領域のことである。プロジェクトにおいて何を対象とし、何を対象としないのかの識別は非常に重要だ。これは二つの観点からの識別が必要だ。

まず、一つ目は他プロジェクトとの関係の整理である。関連するプロジェクトや取り組みが行われている場合、自分のプロジェクトと他のものとの関係性を整理し、どこまでの課題や作業が自分たちのプロジェクトであり、どこまでが 関連するプロジェクトの課題・作業であるかの識別が必要になる。

二つ目の観点は、時間軸での識別だ。他との区別において、このプロジェクトの対象となった課題・作業であっても、今やるものと、今後やるので今回はやらないものの識別が必要だ。プロジェクトには予算やスケジュールの制約が往々にて存在している。今回の限られたリソースでどこまでの成果を達成するのかの整理を行う必要がある。

これらのスコープを整理するためには、まず全体像を整理することが重要だが。対象となる業務・課題・システムなど何を全体として整理すべきかは、プロジェクトが何を対象とするプロジェクトであるかによって異なってくる。全体像を整理した上で関係するもの、関係しないものを識別することができれば、それは最もベストなスコープの整理となるだろう。 このスコープを整理するためにはプロジェクトオーナーとの会話だけでなく、関連する部署や関連するプロジェクトの首脳陣との認識合わせ・調整も重要になってくる。関係者での認識齟齬がないようにしておきたい。

③取り組み内容

取り組み内容は、このプロジェクトで具体的に何を実現するのかといったことだ。ほとんどのプロジェクトにおいては、解決すべき課題があるはずだ。その課題に対してどのようなソリューションや作業を実施するかを示すものがこの取り組み内容になる。
例えば、経理業務の改革プロジェクトであれば、業務に関するどのような課題があるのかをまず整理する。その上でどの業務についてどのような業務の変更を行うのかを具体的な内容を整理していく。ITの導入による効率化もあれば、業務を集約 集約化したり、標準化したりすることで効率化する業務も出てくるであろう。どの業務にどういった変革や改善を加えていくのか、そういった内容を明確にしていくことがこの取り組み内容の明確化である。

どこまでの取り組みを行うのかを、スコープの整理を踏まえ、さらに精緻化していく。プロジェクトオーナーのみならず、実際の担当者のプロジェクト部署のメンバーの意見を踏まえることは大前提だ、できれば客観的な調査なども実施し、費用対効果に見合う取り組みを選定していくことが望ましい。

どのような解決策があるのかについて、自社の中で知見が不足していれば、外部の専門企業の知見を活用することも必要だ。

④作業スケジュール

作業スケジュールはその名の通りどの作業をいつまでに実施するかをまとめたものになる。この時点では詳細なタスクまで落とし込む事はなかなか難しいかもしれないが、ここで重要なのは詳細化よりも、まずはタスクの全体を洗い出しその作業の相関関係・依存関係を明確にしておくことだ。タスクの依存関係を明確にして制約条件がどこにあるのかを明らかにしていく。
例えば、 あるタスクを行うにあたり前提となるタスク、これが終了していないとそのタスクに着手することができないといった前後関係を明確にしていく。前後関係を明確化し、最短でプロジェクトが完了するようにスケジュールを設定していくことで、スケジュールが明確になっていく。この最短のスケジュールのことをクリティカルパスと呼ぶが、クリティカルパスをきちっと実現するには、後の作業に影響を与える前工程の作業の識別とその作業が締切日に遅延しなような、プロジェクト管理が必要になってくる。
そのため、管理上重要なポイントになっていくため、後の作業工程に影響を与える作業を識別し、バッファなども考慮に入れた現実的なスケジュールを引く必要がある。

スケジュールの記載例

⑤体制

体制図を整理することは大きくは二つの意味がある。1つ目は、作業スケジュールで提示した作業を誰が担当するのかを示すということだ。もう一つはレポートラインや意思決定の構造を示すという目的だ。
下記の例では、縦軸はプロジェクトオーナーから担当者まで意思決定の構造、あるいはチームの中で誰が責任者であるかといったことを明確化することを示す。 一方で、横軸は作業スケジュールに記載した作業に対して、担当者も含め、チームごとに担当者名を入れて作業の担当が明確になるよう記載
するものである。また、ステークスホルダーの記載も忘れずにしておきたい。作業を実施する主体でなくても、共有や報告で関係いただかなければいけない部署やメンバーについても記載しておく方が良いだろう。

体制図 記載例

⑥費用

費用はこのプロジェクト全体でかかる費用を記載することが望ましい。どこまでの費用を明確にするかは会社によってルールや制約があるかもしれない。例えば、会社によっては社員の人件費等を積算する事は、按分管理などの管理会計の仕組みなどがないと、難しかったりする場合もある。まずは見積を取得して金額として明確になっているものはきちっと計上することが必要だ。その上で費用の代わりに工数として社員の費用を計上するなど考慮していくことが必要だろう。
外注費については業務委託費のみならずサービスの利用や物件の購入等にかかる費用の計上も忘れずに行いたい。複数年にわたるプロジェクトであればその全体の費用の記載と、年度の予算執行であれば今年度の予算執行分を分けて記載するなど、その会社のルールや会計の考え方も考慮する必要があるので、事前に確認しておいたがほうが良いだろう。

⑦効果

効果については、定性的な効果と定量的な効果がある。定性的な効果とはこのプロジェクトが実行されることにより想定される効果である。 例えば業務の効率化や資金効率アップ等は定性的な評価としての表現である。定量効果はそこからさらに一歩踏み込み業務効率化というだけではなく、工数が何人月相当削減されるといったように、具体的な積算して数値として示す効果のことである。プロジェクトの性質もよるが、定量効果が見込めるのであれば、費用対効果を図る上でも定量効果まで求めることが望ましい。定量効果があれば、プロジェクトを推進する効果があるのかどうかを分かりやすく、説得的に関係者に説明していくことが可能だ。ただし、インフラの刷新など、明確な業務削減効果などがなく、保守切れなどに伴う入れ替え作業の場合は、費用の低減などがみこまれない場合もあり、全てのプロジェクトが定量効果を見込めるわけではない。
コスト削減などの定量効果を見込めない場合、プロジェクトを実施する意義を、対象となるものが業務上必要不可欠なインフラであることなど具体的かつ分かりやすく説明し、必ず必要なものであることを説明する必要があるだろう。その場合、費用の水準は適切なのかどうか、複数の業者から見積もりを取得するなどして説明できるようにしておくことが望ましい。

まとめ

今回は、プロジェクト計画と言うフェーズにおいて、最終的な成果物となるプロジェクト計画書の項目とその作成のポイントについて説明してきた。考慮すべきポイントが毎回変わったりするので、何が論点になるのかを10分見極めて進めることが円滑なプロジェクト計画書の作成が必要だ。これには繰り返し経験を積むことによってしか熟練していくことが難しいかもしれないが、計画書として最終的にアウトプットする項目に ついては、それほど振り幅が無いので、上記に示した項目を最低限必要なものとして常に念頭に置いて進めると良い子では無いだろうか。次回以降はこのプロジェクト計画書をどのような順番で作成していくのが良いか、そのプロセスについて説明していきたい。